広島高等裁判所 昭和58年(う)84号 判決
【理由】
一、控訴趣意第一点について
論旨は要するに、「原判決は、原判示第一ないし第三の各事実が併合罪の関係にあるとして、刑法四五条前段、四七条、一〇条を適用して処断している。しかし、被告人の右覚せい剤使用の目的、時間的間隔、使用場所、使用方法、被害法益などに徴すれば、右覚せい剤の使用は、被告人の単一意思の発現であつて、包括して一罪と評価さるべきである。原判決には法令適用の誤りがあつて、これが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、破棄を免れない」というのである。
そこで、記録を調査して検討すると、被告人は、昭和五八年二月九日に原判示パチンコ店でパチンコをしていた際、偶々覚せい剤の売人に会つたことから、刑務所出所後長女に会えなくてむしやくしやしていた気分を紛らすために覚せい剤を使用しようと考え、同日午後七時ころ、右売人から覚せい剤約一グラムと注射器を購入し、すぐに同店便所内で約0.03グラムを腕に注射してパチンコを続けたが、期待していた程気分がよくならなかつたので、使用した量が少なかつたのではないかと思い、約三〇分後に同量の覚せい剤を同様の方法で注射して再びパチンコを続けたけれども、未だ気分がよくならないため、約三〇分後に残り全部の覚せい剤を同様の方法で使用したこと、被告人は、これまで覚せい剤を使用したことがないこと、が認められる。右事実によれば、被告人には、当初から三回にわたり覚せい剤を継続して使用する意思はなく、一回の使用で予期した効果が発生すれば、それで目的を果したところ、いずれも、効果がなかつたので、新たな犯意で覚せい剤の使用を重ねたに過ぎないことが明らかであるから、たとえ、各行為が同一の構成要件に該当し、向けられている被害法益も同一であり、時間的にも三〇分間隔であるなど、所論指摘の首肯し得る要素を考慮しても、なお、原判示各行為が単一の犯意にもとずくものとは認め難い。所論引用の判例のうち、最高裁判所の各判決は、麻薬施用者としての免許を受けている医師が、同一の中毒患者に対し、中毒治療の目的のため継続して麻薬を施用した事案に関するもので、その目的、意思において本件と事案を異にし適切でない。してみれば、原判示各行為を包括して一個の行為と評価することはできず、併合罪の関係にあるとして刑法四五条前段、四七条、一〇条を適用した原判決には所論のような法令適用の誤りはないから、論旨は理由がない。<以下、省略>
(干場義秋 荒木恒平 竹重誠夫)